16 外来と病棟の収益改善 院内管理者研修

 本日は、病院全体で、病院経営に関するセミナーです。各部門横断的に主任以上が集まっているようです。今回のセミナーを主催した三和事務部長から挨拶があり、講師が紹介されました。講師は、隣町の病院で企画部門を担当している大木耕平(おおきこうへい)室長です。病院経営に、長けているため様々な病院から支援を依頼されるほどの著名人です。

三和:本日の講師の大木先生を紹介します。先生は、大学を卒業した後、銀行に勤められ・・・

大木:ご紹介にあたりました。大木です。病院に勤めて、15年になります。これまで、院長のサポートとして、病院の経営改善に取り組んできました。本日は、三和事務部長から「病院の収益と地域医療連携室の活用」について、講演依頼がありましたので、お話をさせていただきます。スライドをお願いします。

 (スライド1は、医療機関の収益を単純化したものです。収益は、件数と単価で掛け合わせたものと表現されます。この収益は、最終的に、企業でいうところの売り上げとなります。ここで、件数とは、外来患者数や入院患者数とこれらの延べ人数のことになります。次に、単価です。単価は、患者一人当たりの単価となります。外来患者の単価や入院患者の単価となります。

 スライド2は、医療機関における外来と入院の件数に関するスライドです。外来の件数に関係あるのが、新患者や再来患者、紹介患者です。新患者が増加するためには、地域での病院の評判が地域でよい必要があります。再来患者の件数を増加させることは、積極的に増やす必要はありません。この理由は、後ほど説明します。入院の件数に関係あるのが、予定入院・予定退院、紹介入院、緊急入院です。予定入院・予定退院は、病棟のコントロールしやすくします。そのため、病床の稼働率も良くなります。次に、紹介入院の増加です。地域の医療機関に、自院の特徴が理解され、評判が良くなることにより、どんどん増加します。緊急入院は、件数にばらつきがあります。そのため、件数を増加させるためには、外来患者を増加させるか、救急車の受け入れ態勢の整備を行う努力をするべきです。ただし、緊急入院が増加すると通常の業務が振り回されますので、業務の効率が悪くなる可能性があります。

 スライド3)は、単価に影響がある項目を外来と入院で示してあります。外来は、新患者数と紹介による大型医療機器の稼働です。新患者数の増加は、外来の単価増につながります。理由は、新患者は、再来患者と比較して、診察料である初診料が再診料と比較して、約4倍となっているからです。また、新患者は、再来患者と比較して検査などが多くなる傾向があるためです。先ほど、再来患者を積極的に増やさない方がいいと説明したのは、再来患者の単価が低いことと病院の法定人員を割り込んでしまうことがあるからでした。入院は、平均在院日数を短縮することにより、入院の単価を増加させることができます。今回は、説明を省きますが、平均在院日数の短縮は、単価が増加する(Scene14経営センスがついてくる!参照)と覚えておいてください。入院の単価が上がっても病床の稼働率が落ちては、病院の許可病床当たりの単価は、下がります。そこで、病床稼働率も上げる努力が必要となります。平均在院日数を下げると病床稼働率が下がる傾向にあるので、入院件数を増やす努力をしてください。最後に、入院の単価で、最重要なものは、手術件数です。病院の診療の中で一番大きな点数が手術となります。これは、入院の単価に一番影響を与えますので、手術件数が増加するような方策が必要となります。

 スライド4は、これまで説明した「件数」と「単価」を増加させる方策について説明します。この答えは、「地域医療連携室の活用」です。地域医療連携室は、地域の医療機関との連携を担う部門です。しかし、実際には、もっと病院にとって有用な活用方法があるのです。ここで、連携の効用について説明します。連携は、診療所などの一次医療機関と一般病院などの二次医療機関、大学病院などの三次医療機関の間で、患者の症状に最適な医療を提供するために、患者を紹介したり、されたりしています。紹介をスムーズに、手間がかからないように行えるようにするのが、地域医療連携室の仕事なのです。つまり、患者紹介のシステム化を行う部門です。これにより平均在院日数が短縮することや紹介患者、逆紹介患者の増加が可能となります。また、大型医療機器の稼働を上げることも地域医療連携室の仕事次第では可能となります。検査のための紹介を獲得する仕組みを作るのも地域医療連携室の仕事であることは間違いありません。それと、地域医療連携室は、地域の窓口なのです。そのため、地域に向けた広報にも取り組まなければなりません。本日の話を聞いて、地域医療連携室の重要性について、理解できたと思います。病院経営のカギを握るのは、地域医療連携室であることは、間違いありません。地域医療連携室の活用で収益を増加させましょう。

三和:大木先生ありがとうございました。それでは、質問を受けたいと思います。

奈須:質問が2点あります。1点目は、医療機関の法定人員について教えてください。もう一つは、地域医療連携室による大型医療機器の稼働についてです。当院の地域医療連携室も地域の医療機関を回っていますが、大型医療機器の稼働は増加していないようです。どうすれば、いいのでしょうか?

大木:まず、医療機関の法定人員について説明します。医療機関の法定人員は、医療法で定められています。正確には、医療法施行規則第十九条に示されています。病院の必要な医師数は、外来40人(耳鼻咽喉科と眼科については80人)に対して1人、一般病床などのだいたい入院16人(精神病床と療養病床は、48人)に対して1人と定められています。看護師は、療養病床と結核病床、精神病床については、入院患者4人に対して1人、感染症病床と一般病床は、入院患者3人に対して1人と定められています。診療報酬点数の看護体制に換算すると、前者が20対1、後者が15対1に相当します。医療法での法定人員は、最低基準ですので、診療報酬点数表の人員基準と混同しないでください。薬剤師についても法定人員があります。精神病床と療養病床の入院患者については、150人に対して薬剤師1人、それ以外の一般病床などは70人に対して1人、外来患者については処方せん75枚に対して1人となっています。その他、100床以上の病院には、栄養士が1人と定められています。

 大型医療機器に関する地域医療連携室の役割については、まず、病院で所有している医療機器について、近隣の医療機関に知ってもらうことから始まります。CTやMRIをいくら紹介してくれと言われても、どのようなスペックの機器であるのかわからなければ紹介したいと思いません。CTであれば、64列のマルチスライス、MRIであれば3T(テスラ)といったスペックがわかって、初めて検査をオーダーしようと思います。さらに、連携する各医療機関によって、検査対象が違いますので、画像検査関係であれば、どのような部位をどのように撮れ、読影の報告書がどのようになるのかが説明できれば、より紹介が増えます。これは、画像診断部門の診療放射線技師と一緒に開業医などを回ると有効です。できれば、その時に、画像診断や検査のオーダー用紙を配布し、画像診断については、撮影方法などの打ち合わせができるといいと思います。

奈須:大変勉強になりました。ありがとうございます。

 ほかの病院の取り組みを聞くことは、とても勉強になる。とくに地域医療連携室を立ち上げたばかりの日本総合病院には、今回の研修は、有効だったのではないだろうか。収益に関する考え方や地域連携室の本当の役割について、とても勉強になった。